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[食 Vol.44] 豊後高田市 / 春の七草」

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豊後高田市

春の七草

Vol.44
 豊後高田市は、大分県の北東部、国東半島の西側に位置し、夕陽100選に選ばれた真玉海岸をはじめ、中世の荘園景観を引き継ぐ農村集落や山岳仏教文化「六郷満山(ろくごうまんざん)文化」ゆかりの史跡などが数多く現存する地域です。
 近年は、過疎化や高齢化で衰退する地域に賑わいを取り戻すため、市内の商店街が元気だった昭和30年代の町並みを再現した町おこしが、地方都市再生の成功例として全国から注目されています。

 今回は、そんなタイムスリップしたような景観の中、地域農業の未来を切り開こうと、主に春の七草の生産・加工販売を手掛ける(有)北崎農園の北崎 安行(きたざき やすゆき)代表を訪問しました。
 
 北崎代表が考える地域農業のあり方は、生産する作物を選別し、製造・流通コストに利益を確実に上乗せした明確な経営計画のもとで生産することが重要と捉えています。
 このため、「生産時期が限られる。手間が掛かる。取引量が少ない。」など、価値はあるものの競争力が低く、生産者自らが価格を決められる作物を選別対象としています。その代表格を使用時期や用途が極端に限定される春の七草と捉え、市場の需要が高まりつつあった約30年前から生食用にパック商品化し、最近では乾燥やレトルトなどの加工商品化にも取り組んでいます。

 七草には秋の七草もありますが、北崎代表が生産する春の七草は、1月7日の朝、お粥で食べる芹(せり)、薺(なずな=ペンペングサ)、御形(ごぎょう=ハハコグサ)、繁縷(はこべら=ハコベ)、仏の座(ほとけのざ=コオニタビラコ)、菘(すずな=カブ)、蘿蔔(すずしろ=ダイコン)です。
 春の七草を摂る風習は平安時代などの中世からあり、ビタミンが豊富で消化を助ける青菜を摂ることで冬を健康的に過ごすという意味のほか、生命力のある若菜を摂ることで邪気を払い1年の無病息災を願う意味あいがあると言われています。

 高度成長前の田畑や山野に囲まれた昭和前半には、誰もが天然の春の七草を身近な場所で集めることが出来ましたが、全てを集めることが困難な現在、春の七草のパック商品は、この時期に欠かせないものであるといえます。

 訪問した日は、出荷の最盛期、少しでも良い商品を消費者の方に届けたいと、200名近い地域の方々が、ハウス内で商品の選り分けをしていましたが、農業分野でも捉え方によっては、こんなに多くの雇用創出が可能なのかと驚かされました。

 北崎代表に今後の目標を尋ねたところ、「農作物には春の七草のような狭間(はざま)の作物が多くあります。地域農業を進めるうえで、若者が、農業を楽しめて儲かる産業と考え、参入意欲を持ってもらえるよう、狭間の作物によるビジネスモデルを確立していきたい。また、若者の研修などを受け入れ、作物と会話ができる観察力や洞察力を持ってもらえるよう、これまでに培ったノウハウを伝えていきたい。」と農業のビジネス化による地域の活性化について語っていただきました。

 北崎農園の皆さんが無病息災の願いを込めて生産した産地直送の春の七草、是非、坐来 大分でもご堪能ください。(要予約。天候等により入荷がない場合もあります。)

総合監修 金丸佐佑子(平成22年12月発行)


〈伝承料理研究家 金丸佐佑子さんのお話〉

 「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ春の七草。」お正月三が日過ぎると、恒例の母との「七草粥」問答が始ります。私は「七草粥」が好きではありませんでした。その理由は「美味しくない。病人食みたい。畑に野菜が沢山あるのに、何故、土手の雑草を食べるか」です。それに対して母は「お粥は身体に優しい。野草は生命力に溢れ、食べると邪気を払い、万病を予防出来る」と。

 私はそれだけでは納得出来ませんでした。身体によい食べ物なら一年に一日だけでなく、年中食べればいい。私が幼い頃は、自家用の卵を採るため鶏を飼っていました。その鶏の餌ははこべらです。家の周囲ははこべらだらけ、七草の殆どは周辺にある雑草のたぐい。和歌に出てくる摘草の感動とは程遠い世界でした。

 温暖な宇佐平野に育った母は、お粥は病人食であり、白いご飯が美味しい、野草より野菜の方が美味しいという潜在意識があったと思うのです。成人した私はそう分析しています。ですから、私に感動が伝えられなかったのでしょう。

 最近は、麦ごはん、雑穀ごはん、お粥等が静かなブームになっています。健康志向という視点からだけでなく、世界の珍味、極めつくした美味しさ等と異なる足もとの旬の食材、料理、先人の残した食の知恵に美味しさ以上の癒しを感じているのではないでしょうか。

 母達世代が伝えられなかった思いを私達世代や若い人達が伝えなければ、それは生き方の自信を伝えることでもあると思うのです。
 「七草粥」はその切っ掛けとして、とてもいいと思いませんか。

春の七草

商品の選別作業

商品の選別作業

春の七草セット商品

坐来料理

北崎代表

夕陽100選 真玉海岸

昭和の町

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