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大分市

鏝絵

Vol.23
 今回は大分県に残る「鏝絵(こてえ)文化」の世界に生きる女性職人金森 博美(かなもり ひろみ)さんをご紹介します。

 「鏝絵」とは、漆喰で作られたレリーフのことです。具体的には民家や土蔵の漆喰壁に左官道具の鏝(こて)を使って白土や色土を浮き彫りにして風景や肖像などを描いたものです。歴史は古く、江戸時代に幕府が防火対策として漆喰を奨励したことにより、豪商などが外壁の装飾として盛んに用いたとされています。

 現存するものとして全国で約3000か所、そのうち大分県には約1000か所もの鏝絵があると言われています。なかでも大分県宇佐市安心院町には腕のいい左官職人が輩出されたこと、また漆喰が手に入りやすく、比較的裕福な家庭が多かったことから明治から大正期にかけて作られたものが多数残されており、平成8年には「大分県の鏝絵習俗」として「国選択無形民俗文化財」に指定されています。

 金森さんは、宇佐市の出身ですが、特に左官職人でもなく、ごく普通の主婦としての生活をしていました。日本の伝統的な技の世界へ転身したきっかけは、年齢も30代半ばに差しかかった時、両親の死と子供の誕生を体験し「生死=人の生」というものを深く見つめ直したことでした。

 自分は死ぬまでの間に何を残せるのか、自分の生き様は子供に誇れるものなのか…自問自答を繰り返し、その中で閃いたもの、それが幼い頃から目にしていた鏝絵でした。新たな挑戦のひとつとして、「鏝絵職人」という選択肢を現実的に言葉として自分が発した時から、何かに導かれるように金森さんの人生は転機を迎えます。友人から鏝絵の師匠となる人物を紹介され、日々修行の道へと邁進していきました。最初は、一時の事だと捉えられ、女性が左官道具を使用し鏝絵を描くことに特異な目が注がれることもありましたが、今では伝統を継承していきたいというその真摯な姿勢と強い想い、そしてその金森さんの志気が乗り移った作品を見ると周囲の人も本物の職人であることを認めざるをえません。
 
 金森さんの作品の特徴としては、厚みが薄い中にも奥行きがあり、繊細な線で描き色をあまり使用しない技法にあります。多くの鏝絵が華やかな色で装飾されている中、金森さんの作品は一風変わった趣を放っています。また先人たちの知恵と文化を大切に受け継ぎながら、同時に現在のライフスタイルにも合うインテリアとしての鏝絵を提案しています。

 金森さんは言います。「塵は同じ所に何十年も何百年も積もるもの。だから先人たちと同じものを作ったとしてもその歴史(塵)の中でしっかり息づいてきたものを超えることはできない。だから私は自分にしか作れない、今、その場所が持つ雰囲気を感じ、光の流れを読み取り、主張しすぎずに息づいている全てのものと気持ちを沿わせ、暮らしに調和するものを作っていきたい。見た人の気持ちにすっと寄り添うような…。人は一人一人生き方が違うように、同じものを見て全く同じ事を思うことはない。だから色を付けることによって、そのものの色を一つに固定したくないんです。」
 
 確かに、金森さんの作品は一日の光と影の流れを緻密に計算し、独自の発想性に富んだ職人としての心意気を感じさせます。まるでその描かれた鏝絵からは生きているかのような幻想的な雰囲気が漂っています。

 「一度っきりの人生。過ぎた時間は埋めようがない。選択肢はいっぱいあるけど、私は私に鏝絵を描くことを託してくれた人達の気持ちに応えたい。私の生きた足跡は大分の鏝絵文化を少しでも残すこと。一つずつやり進めることが大分の文化となってくれると信じている。続けていくことが私の喜びであり、生き様なの。」と優しくほほえんでくれた表情には自信がみなぎっていました。

 金森さんの作品は、大分県内の寺院やショップ等の他、大分のフラッグショップ「坐来大分」でも展示しています。生活の中で触れることの出来る鏝絵、癒しの漆喰感を味わうと同時に、作品から伝わってくる息づかいを感じてください。

○お問い合わせ先
 鏝絵工房 金森 博美
 電話:090−7461−9827

「金森 博美」さん

坐来大分に展示している「波兎朝」「波兎夜」

「鯉と金太郎」

「鳳凰」(大分県日出町大法輪寺)

作業風景(「ホーランエンヤ」大分県豊後高田市高田屋)

デッサン

「牡丹」

「お雛さま」

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