びわは5月末〜7月始めにかけて収穫される初夏の果物です。日本に古来自生していたびわは果実の小さなもので、食用としてではなく観賞用として利用されていたようです。江戸末期頃に中国から果実の大きな品種がもたらされ、現在のような大玉のびわが本格的に栽培されています。
今回は、大分市の特産果樹である「田ノ浦びわ」の生産地を、JAおおいた大分事業部びわ部会長の阿部宏明さんの案内により訪問してきました。
大分市田ノ浦地区は、自然な猿たちを間近に見られる国立公園高崎山自然動物園や、「ふれあい」をテーマに、約500種、15,000点の生物を展示する大分マリーンパレス水族館「うみたまご」に近く別府湾を一望できる生産地です。栽培面積は約12ヘクタール、年間約60トンを生産しています。
びわにはいくつかの品種がありますが、田ノ浦地区では、長崎早生(ながさきわせ)、茂木(もぎ)、田中(たなか)の3種類が主に栽培されています。
現在、出荷しているびわは、ハウス栽培ものの長崎早生で、露地ものが6月初旬から出荷されるそうです。
びわの特徴は、上品な甘味と見た目以上にジューシーな果肉であり、古くから健康に良いとされ、疲労回復など大変優れた薬効もあります。
田ノ浦びわの栽培特徴を阿部さんに伺うと、大分県の認証制度であるe−naおおいたに取り組み減農薬、減化学肥料栽培を実践するとともに、有機質を土壌に投入するなど安全・安心な生産を心掛けているそうです。
また、実を大きくするために摘房摘果を行い、できた実はとてもデリケートなため、袋掛け、収穫、箱詰めなどにも細心の注意を払っているそうです。
美味しく食べるためには、新鮮なびわを選ぶことが重要となります。見分け方としては、ヘタがしっかりとついているもの、果皮に張りがあるもの、表面のうぶ毛と白い粉(ブルーム)が残っているものを選び、購入後はできるだけ早めに食べるよう勧められました。また、日持ちさせたいなら野菜室での保存も可能ですが、冷やしすぎると風味が落ちてしまうため、食べる2〜3時間前に冷やすことで美味しく食べられるそうです。
阿部さんが真心込めて栽培したびわを、是非坐来大分でご堪能ください。
■JAおおいた 大分事業部
〒870-0854 大分市大字羽屋600番地の10
TEL:097-546-1115 FAX:097-546-1144
〈伝承料理研究家 金丸佐佑子さんのお話〉
三年前、知人から大分田ノ浦産の枇杷をいただきました。白いうぶ毛がびっしりの大粒のそれはそれは見事なものでした。
早速、溜色の輪島塗点心盆、大分の誇る人間国宝、故生野祥雲斉工房作のお絞り入れ“ささ舟”に色鮮やかなベネトンの小タオル、白と透明の交ざりあった手作りガラスの角皿を準備。役者は揃いました。勿論、主役は三粒の枇杷です。来客のためでもなく、私一人のためにしつらえた食卓は一時間近くかかりました。でも本当に美味しかった。楽しかった。
海沿いの私の周りは庭先に枇杷の木があるのはごく当たり前。ただし摘果や袋掛けをするわけではありませんから種も多く小粒です。野鳥と競ってまで食べようと思いませんでした。たかが枇杷ぐらいと軽く見ていました。木があるわけですから、買うことも、いただくこともなく、更に旬も短いため見過ごしてきた果物の一つだったと思います。
ところが、今回は何故、こんなに心をときめかせて食べたのでしょう。それは枇杷が絵になる果物だったことです。
そして、更に新しい発見がありました。私の日常茶飯は一汁三菜が基本ですから、私用の飯茶碗、汁椀、はし、使い慣れた小皿、鉢、皿等々。季節によって、はし置きが変わったにしても手近にある普段使いの器を料理にあわせて使いまわしているにすぎません。
ですから毎食ときめいて食卓を演出することはなかったのですが、果物にはこだわりがあったのです。
西瓜は大きな木の盆に盛って縁側で、みかんは藍胎漆器のかごに盛って暖かい部屋で(昔ならさしずめ炬燵や火鉢のある部屋で)、苺やぶどう、キウイ、さくらんぼはガラスの小皿に、メロンやマンゴーの高級果物はヨーロッパブランドの洋皿に、りんごや梨のように色のないものは時代物の赤絵っぽい小鉢に、日常のお総菜では使っていない器を果物では結構楽しんでいたのです。
幼い頃、病気になったらお見舞いでいただけるから病気も悪くないとあんなに憧れていたバナナは今はどうでしょう。ときめきも演出もなく食卓にあるだけのものになっています。私の中では枇杷とバナナの地位は完全に逆転。
日本在来の地味だった果物が関係者の努力によってスポットライトをあびる時代になりました。一庶民の私が今もときめく枇杷がその代表です。将来が本当に楽しみ。期待しています。
総合監修 生活工房゛とうがらし˝金丸佐佑子(平成23年5月)
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田ノ浦びわ
出荷される田ノ浦びわ
阿部宏明さん
国立公園高崎山自然動物園
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」
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