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[食 Vol.74] 豊後高田市 / ボタンボウフウ(長命草)」

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豊後高田市

ボタンボウフウ(長命草)

Vol.74
 皆さん「ボタンボウフウ」と聞いて何の名前かわかりますか。気象関係の用語(ボタン暴風)?、ぼたん鍋に使う食材?等々想像が膨らみますが、実は植物の名前なのです。別名、長命草(ちょうめいそう)とも呼ばれ、沖縄県などの温暖な地域で海岸沿いの岩場に自生するセリ科の常緑多年草です。
 「一株食べると1日長生きする」と言われ、古くから天ぷらや刺身のつま、味噌和えにするなどして食されてきました。また、牡丹(ぼたん)のような葉を持ち、風邪薬代わりに使われた(防風)ことが名前の由来だそうです。

 大分県でもボタンボウフウが自生する地域があります。今回は、世界農業遺産に認定された国東半島の西側に位置する豊後高田市香々地地区のボタンボウフウ研究会(会長:河野嘉吉(かわのかきち)さん)を訪問しました。

 同研究会はボタンボウフウで町おこしをするため、平成22年に設立され、岸壁に生えていた長命草の種を集め、海岸に近い耕作放棄地を活用し、約1.2ヘクタール程栽培しています。
 取材に伺った同研究会の渕秀幸(ふちひでゆき)さんによると、昔から健康に良い食材として地元では「命草(いのちぐさ)」と呼んで食されていたとのことですが、新たな地域特産品として売り出せるよう、加工技術などを研究中とのこと。
 研究会の活動によってスポットライトがあたるようになり、今後ますます皆さんに知っていただきたい食材です。

 坐来大分では定番メニューの「りゅうきゅう」に大分の味一(あじいち)ネギと長命草を使用し、お客様の好評を得ています。かぼすブリの刺身との相性も非常に良く、長命草が「りゅうきゅう」の味を際立たせています。
 是非ご来店のうえ、ご堪能ください。


■香々地ボタンボウフウ研究会
 会長 河野 嘉吉氏
  〒872-1207
大分県豊後高田市見目648番地の1
TEL.0978-54-3511  


〈伝承料理研究家 金丸 佐佑子さんのお話〉

 先日、感動的な出会いがありました。20年近く気がかりだった「ボタンボウフウ」に会えたのです。私は長年、「ボウフウ」の一種、「浜ボウフウ」の料理を作ってきましたが、「ボタンボウフウ」の料理をしたこともないし、実物すら見たことがありませんでした。「浜ボウフウ」に関していえば、築地や大田市場、地方のデパートの食品売場等で簡単に手に入れることができます。一流料亭の料理や仕出し料理、刺身のつまに使用され、私ですら「浜ボウフウ料理」を作るくらいポピュラーな食材です。ところが、私の手許にある事典では「浜ボウフウ」についての説明はかなりありますが、「ボタンボウフウ」に関しては数行のみ。

 今回、「坐来」の料理に「ボタンボウフウ」が使われるので、豊後高田市香々地の「香々地ボタンボウフウ研究会」に坐来大分の関係者が取材に行く由伺いましたので、私も是非同行させて欲しいとお願いしたわけです。お話しを伺っているうちに沢山の感動をいただきました。葉っぱの形状が「牡丹」にそっくりだから「ボタンボウフウ」別名「長命草」ということ。更に研究会ができるまでは正式な名称を知らない人が多く「いのち草」と呼ばれていたとのこと。「一株食べると一日長生きする」と言い伝えられてきたこと。身体によい植物であることは長年言い伝えられていたのです。近代栄養学や新薬とは程遠い田舎の高齢者の元気のもとはこれらに支えられていたのだと思います。
 日本一住みやすいといわれている豊後高田市の実力はこの辺にあるのかもしれません。現代は「いのち草」を食べるより大手種苗会社の種苗を利用すれば一般受けするくせのないそれなりに美味しい野菜が大量生産できます。それもしかりです。くせのある「いのち草」の料理より大衆受けします。世界各地、日本全土から集めた料理は私もわくわくです。

 「浜ボウフウ」についてもそれはいえます。三十年前は国東半島まで往復三時間かけて「浜ボウフウ」摘みに出掛けていました。それを見て友人は「物好きね」と私を笑いました。そんなに手間暇かけなくても美味しい野菜は沢山あるのにと。でも私は数株の「浜ボウフウ」が問題なのではなく、美しい国東半島を眺めること、そこに頑張って自生している「浜ボウフウ」の姿、それに愛着があるのです。そして生まれた料理は食べた人の心に伝えるものがあります。前述の「物好き」と笑った彼女が一番に「美味しい」と言って下さるのです。食べることはその背景が大切だと常に思っています。

 「浜ボウフウ」はその後、私の住む宇佐市和間海岸にも自生していることがわかりました。二十年前から地元の皆さんがコツコツと海岸の清掃活動に精を出した結果、美しい海岸へとよみがえり、消えかけていた「浜ボウフウ」が復活したのです。今では散歩がてらに手に入るようになりました。本当に嬉しいことです。

 野草も放っておけば絶えてしまいます。香々地の「ボタンボウフウ」は人工の手を入れていますが有機、無農薬、そして時々潮水をかけてやる等、自然になるべく近いように育てている苦労をお聞きしました。この熱意はきっと多くの人の心を打つはずです。必ず応援する人の輪も広がるはず。

 翌日、私は足許の和間海岸に行ってきました。あったのです。「ボタンボウフウ」が。私の中で名前と実物が一致していなかったのです。二度目の感動でした。
 その翌日、妹と料理、そして試食。勿論美味しかったのですが、それ以上に名前の由来や私達の先祖も食べていたのかしらと、思いは先祖の話まで及びました。三度目の感動でした。

 時代は珍味、美味しい、価格だけでなく健康や安全な食へと向かっています。その一つとして「ボウフウ」は注目されるはずです。「いのち草」のお茶を飲み、お粥を食べ、料理を開発する。私の課題の一つにしたいと思っています。これが四度目の感動になることでしょう。そして忘れてならないことは、このことを若い人に伝えること、どんな反応があるでしょうか。楽しみです。これが五度目の感動になることを期待しています。更に大分県にはまだまだ面白いものが埋まっていることも伝えたい。これが六度目の感動。止まれ。感動の安売りになりました。


総合監修
 生活工房とうがらし 金丸 佐佑子(平成28年1月)

海岸近くの耕作放棄地を利用して栽培しています。

ボタンボウフウの葉

渕さんから説明を受ける金丸さん

ヘルシーな長命草パウダーも販売しています。

左から渕さん、金丸さん、藤井さん

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